《古樸集》
春日の万燈をまき散らした空
千里の駒が馬蹄う幻れ氷
雪明り嫦娥のウサギが走る
詩箋を手に持った狐の妖
手紙に桜花の三五輪
一别の渡し場の吾が柳
春の夜の銀漢一筋は太刀か
水月三千個もあれば化身
高山流水一曲天下の知音の琴始
珊瑚と去年今年赤い涙
小刺客は海胆を怒ひけり
目の縁の明き愁う古硯
白蛇や抜く殻冢原卜传の刀
生ビールより白蟻の湧き上る
廃電池の底の細流や春深し
獅子くぐり金の輪は太陽
尺八や一寸の竜が鳴く
寒蟬抜く蟬殻は黄金の屋
美人の掌心の痣や小豆生む
春光むかし屏風の金泥
松の実して若緑の佛髻頂はす
蟹殻を堅よく棚上げ休戦日
飛行機聞く筆跡の過き紙に
真珠一千万斗や春の雨
鱼腹のように白い天の川
地球儀一人残らず
北へ北へ手紙読ちけり雁の字
浅蜊の舌や秘め事
明日葉や昔の己の姿を見る
春に後身帰る
露の珠これはダイヤモンドですか
一時に蛙の子も垢が抜ける
かたつむりの後ろに銀河があります
枯山水は山水より寒い
ハエは仏前で合掌する
蟷螂は枯れても鋭いのこぎり
鮎の子や美髯を揺り動かす
寄居虫屋は故人か
春川やちりめんの皺が寄る
枯木も忘れ年輪
桃花や美人の映り春の水
どんなに涼しいわが影
玉柳や髪を湖辺に掻く
夜がスクリーンにメール忘れけり
球がポケットに入る夕陽かな
一つ一つのイチゴや心が通う
電池の内の電流や春深し
ポートワインをストローに吸う蚊か
君の成功を祈るハスキーかな
柳の枝や春鮒釣りする
掌の川よ生命線は無声
両鬢や鏡中は滝がかかる
満の月は厩出しの馬の目
玉肌から水が滑る雨の竹
春夢雲も雨も巫山戯る
氷柱は水晶簾の宮殿哉
吾掌の陰に梧桐葉青む
一人の影映る二人で行く
青蛙がしっとり上半身かな
螳螂は鋸引の枯枝かな
この空山は春天で還俗し
大空や空や空や空や空や
地平線は一筋スタートラインや
細螺や美人の髪の碧の簪
人も見ぬ蘭の花や空の谷
「蘭亭序」のその細き鼠の須
麦畑や黑蟻がタイルを這う
茶杓や竿は岸につっ軽舟
龍天に昇る上げ花火かな
竹の皮脱ぐ竜宮の柱立つ
冷奴を月世界こ食べるか
銀に輝く峰々は万馬の如し
聳える玉峰は中指の如し
赤蜻蛉や青蜻蛉の上に
光を収束するや秋扇開く
月の魂が水に浮かぶ
鳳凰の周りに百千鳥の集まり
米つぶは蟻の道へ移動中
黑蟻の列車に上る快哉
てのひらに錦を載せるプリズムかな
黄河や吾の血筋の中の龍
太陽は万物の電池の如し
長城は一筋の眠れる龍や
獅子の大吼一声で決まる
八百匹の馬江に湧く観潮かな
マッチの燃えさしあれの紅帽は
遅き日の長い川もみの如し
古松に万片淋し老龍鱗
玉川や吾が腰に帯をしめる
青や山へなり河へなり行く
大地に印をつける青の田
蟹のはさみが空へ伸す投降か
小豆粥に熱い涙や紅燭
風有り月有り不眠夜や
一瓢や川の水の流れが続く
環食や上帝の金の指輸
夏木立の昇天の気ありけり
竜が金鱗上の換え菊かな
蜂王宫に金屋の八百軒
退屈でしかたがない歳暮哉 |